■156-参-財政金融委員会-8号 平成15年04月22日 |
○大門実紀史君 日本共産党の大門です。 福井総裁に初めて質問いたしますが、じっくりお考えを聞きたいと思いますけれども、今、日銀はここまで踏み込んだんだからもう一歩というお話ありましたが、私は、むしろ戻ってもらいたい、このまま行くと日銀はどこへ行ってしまうのかと。はっきり言ってもう、まともな日銀に早く立ち直ってもらいたいという立場で幾つかお聞きしたいというふうに思います。 まず、ちょっと原理的といいますか、素朴な質問なんですが、量的緩和と金利との関係なんですが、七九年に米国で量的ターゲットをやりましたけれども、それを話しすると長くなりますので、申し上げたいことの結論は、一定の金利が、ゼロじゃなくて一定の数値が、金利の水準があるときに量を調節すれば何らかの市場効果が出るというふうに、私はこう理解しているといいますか、だから実体経済にとっては、はっきり言って、金利がすべてとは言いませんけれども、金利があってこそ量が付いてくると、通常ですね、出てくる。ところが、今、日本はほぼゼロですから、このときに量をこういろいろいじっても、私は、金融政策としてそもそも限界があるというか、効果が出るのか出ないかということさえ原理的になかなか見通せないものがあると思うんですけれども。 何かその辺、そもそも最初の出発点が何か間違った方向に来ているような気がするんですが、金利がゼロの状況で量だけ動かして何か出るのか、効果が出るというのは何か確証があるのかどうか、ちょっと原理的な話ですけれども。 ○参考人(福井俊彦君) 今、委員お尋ねの、アメリカが一九七九年、ボルカー総裁のときに、金融政策のターゲットを金利ターゲットから量的ターゲットに変えたことがございます。当時は、アメリカのインフレ抑制のために、裁量的に金利水準を引き上げていってもなかなかインフレが抑制できない、つまり人間が頭で判断してインフレを抑えるためにこれが適正な判断だと思ってもなかなか手が届かないというときに、ターゲットを切り替えて量にしたんです。量を一定のものを与えて、あとは金利はマーケットの中で自由に形成させたわけです。そうしましたら、金利はインフレを抑制な水準にまで駆け上がったわけですね。つまり、人間の頭でなくてマーケットがそのとき必要な金利水準を発見したと。これがアメリカの量的ターゲティング金融政策です。 今、同じ言葉で量的ターゲティングの金融政策と日本銀行の場合言われておりますけれども、アメリカの場合と違いまして、当時は金利が生きていた、今は、金利が死んでいるというのは言葉は悪いんですけれども、ゼロに、ほぼゼロに張り付いていて、金利機能が十分発揮できないと。したがって、同じ量的ターゲティングといっても、アメリカのやったやり方と日本の場合とは違うということでございます。向こうはインフレ抑制、こちらはデフレ脱却ということで、方向が違うということはありますが、それとは別に金利が使えないと。したがって、量を固定して金利を動かすというのではなくて、量的ターゲティングといいながら、量を変えながら、つまり増やしながらこれで緩和効果を浸透させようと、こういうことでございます。 この考え方は、必ずしも過去の、どこかの中央銀行で経験値があって、こういう原理の下でこういうふうにうまくいきますという過去の遺産はないわけでございまして、そういう意味では、新しい領域を日本銀行はチャレンジしているということでございますが、一応の筋書としては、金融市場に流動性をたくさん供給いたしますと、そのお金の持ち手がやっぱり単純な流動性のままたくさん持たないで、いろんな形でこの資産の持ち方を変えるだろうと。つまり、資産の持ち方を置き換える、ハイカラに言う人はポートフォリオ・リバランシング効果と、こう言うんですが、お金の持ち方を変えることによって経済に対して間接的に刺激効果が及んでいくんではないかと、こういう理屈に立っているわけです。 しかし実際には、これまでのところ、このお金が十分そういうふうに経済の隅々まで行き渡らなかったと。狭い意味の金融市場の中で言わば空回りしている部分が非常に多いということなので、もうちょっとこのお金を末端にまで運んでいくための追加的な工夫が要るんじゃないかということで、今、新しい工夫に今苦慮していると。ついこの間の、資産を担保とする証券の流動化、その中で日本銀行が新しいオペレーションを行っていこうという考え方は、その一つの工夫として出てきたものでございまして、これはまず、せっかく出てきた工夫ですから是非実現して相応の効果を出していきたいと思っておりますが、まあどんなものがほかに工夫ができましょうか、これからももっと工夫をしていきたいというふうに思っています。 ○大門実紀史君 ありがとうございます。 ただ私は、そのお金の持ち方といいますか、それはもう後で触れますけれども、要するにゆがんだ持ち方になってきていると思うんですね。ですから、先ほどからインフレターゲット論あるいは政府紙幣ですか、もう荒唐無稽な話がどんどん出てきているんですけれども、インフレターゲット論、今もう浜田先生言われたように、私もそう思うんです、そのインフレターゲット論と日銀が進めてきている量的緩和政策というのは何が違うか分からないんですね。ただアナウンスしていないだけなのか、手段の問題なのか、何を日銀が買い取るか、何を買い取るかの問題なのか、それだけの違いのようで、結局、私余り、基本的に、先ほど言いました量と金利の関係とかそういうものでいくと何も変わらないと思うんですが、もし違いがあれば教えてもらえますか。 ○参考人(福井俊彦君) 形の上の違いは、恐らく最終的な物価安定の目標というものを、恐らく上限幾ら下限幾らというふうな形で、最終目標を今の日本銀行が、安定的に物価がプラスになるまでというふうな、つまり上限を示さない形でなくて上限も示した形というようなのが一つ。それから、厳格に期限を限るということではないにしても、おおむねどれぐらいの期間でそれを達成するというコミットメント、恐らくこの二つの要素ではないかというふうに思っています。 そういうコミットメントを明確に今、日本銀行がしていないということが違いで、もう一つの違いは、もし仮にそういう上限付きの明確なターゲットを設け、かつ期限も設けた場合に、今度は何が何でもそれを達成する方法があるのかという部分が問題になってまいりまして、日本銀行が確信持てなくとも、何が何でもとにかくそれを達成するために、考えてみれば考えられるありとあらゆることをやってみないかという議論に通じるか通じないかと、この部分がもう一つの相違だと。 我々はやはり、こういうことをやれば確実に、ほぼ確実にこういうことは達成できるという確信を持って、そういう意味では責任の持てるやり方でこれを進めたいと、こう思っているわけですけれども、そこにジャンプがあるかないか、ここのところは明確でないんですが、可能性としてはそこにもう一つの違いがあるということだと思います。 ○大門実紀史君 総裁は衆議院の議論でも、需要の問題もあると、資金需要の低迷の問題もあると。実際、改めて数字申し上げるつもりなかったんですけれども、日銀の当座預金というのは、この三月末でいえば三十四兆、直近の四月十八日現在で二十七兆まで当座預金が増えていると。これは実は、小泉内閣発足のちょっと前からですけれども、要するにこの二年で五倍の水準に、当座預金五倍になっているんですね。この間に大手行の貸出し平均残高というのは三十六兆円も減っていると。もう全然違うギャップが生まれているわけですね。これは総裁もお認めになっているとおり、資金需要がやっぱり減少していることも大きいんだということだと思います。 そうすると、それはちょっと確認の意味で、そういうこと、そういう御認識でよろしいですか。いいですか。 そうしたら、私、申し上げたいのは、インフレターゲット論も量的緩和も、ちょっと、そもそも理屈の履き違えが私はあるような気がしているのは、例えば、一言で言えば、竹中大臣とよく議論をするんですが、どうもサプライサイドに、供給側に偏った、そこばかりを一生懸命考えている政策ではないかと。例えば量的緩和も、供給側ですね、資金の供給する側、銀行、日銀、こればかり考えていて、資金の需要の方が低迷しているのに一方通行でそちらばかり考えていると。 インフレターゲット論者の方々の本、読ましてもらうと、企業側でいきますと、大体共通しているのがデフレで、このデフレで債務が膨らんでいると。もう一つは、デフレですから実質賃金が高まると。つまり利潤が、利潤率が下がっていると。これ、インフレにすれば両方解決するからという、要するに企業の予想利潤率を上げれば投資が促進されるから良くなるんだと、こういう理屈ですよね。これもやっぱり企業サイドから見過ぎだと。 やっぱり今、需要不足のこの景気全体状況を見ないで、銀行側からとか企業側から見ると極端な話が出てきて、この点ではインフレターゲット論も、日銀が進めておられる量的緩和論も余り方向として変わらないと。そこばかり無理しても、私がさっき言った量と金利の関係から言っても、やらないよりはましの何か出るかも分かりませんけれども、一生懸命こんな方向をやってもほとんど効果はないというふうに思うんですよね。やっぱり需要の方をきちっとやらないと、両面必要ですよね。私は需要だけとは言いません、もちろん企業も大事だし、供給も大事ですけれども、そんな一面的に見ないで、両方をやっぱり良くしていくと。 だから私は、何でもかんでも日銀に、何かもう政府の方も、財政支出が限界に来た、もうこれ以上景気対策はできない、だから金融政策だ、だから日銀だと、すべて日銀のせいのようになっていることそのものが非常にゆがんでいると思いますし、ちょっと全体で何か全然違った方向に今行っているんじゃないかなというふうな気がしますが、総裁のちょっと認識を、その辺伺いたいと思います。 ○参考人(福井俊彦君) おっしゃるとおり、経済は、供給の面、需要の面、両方ともやっぱり将来に対するある種の展望を持って人々が行動するという大きなバックグラウンドがなければ、あるいはそういうバックグラウンドを用意しなければ円滑に動かない。金融政策もそういうバックグラウンドの下では非常に有効に作動するということだと思いますけれども、日本の経済の場合には非常に需要の大きな転換の局面にあって、高度成長時代のように需要を追加すれば供給面がうまくマッチしていくとかいうふうに、需要と供給を別々に考えにくい局面にまで既に達したのではないかと。 つまり、いろんな要素がありますけれども、一番典型的なのは、経済が余りにも成熟化して、通常の物とかサービスは日本の人たちはもう余り食欲がわかなくなっていて、やっぱり需要と供給の問題が同時に解決できるような新しい動きがなければ、結局需要も出てこない。例えば、携帯電話でも写メールというふうな新しいものを供給すれば需要も一緒に付いてくる。あるいは、最近だとデジタルカメラというふうに、始めから需要サイドにそんな希望があったわけじゃないけれども、供給の方でそういう潜在的需要を探り当てて提供していけば、やっぱりこれが顕在的需要となって出てくるというふうに、需要と供給両面から新しいものを開発しながら経済を発展していくという段階に変わってきているということだと思います。 したがいまして、金融政策の方は専らサプライサイドまで行っているじゃないかと、こういうことなんでございますけれども、しかし、そのお金の伝達の仕方に工夫を凝らすと、こういうふうに申し上げました意味は、そういう新しい創造活動をする企業の手元にお金を届ければ、需要と供給が同時開発される可能性があると。それは大企業、中小企業を問わないので、日本の中小企業の場合にも結構新しい仕事をこれからどんどんなさっていかれる企業があるわけで、そういう企業については、多くの人が見る目として、銀行もお金を貸し出すけれども、やはりある時間的距離を置けばマーケットからもお金が調達できる人であるかもしれないというふうに見始める、そういう企業もこれからやっぱり増えていくんじゃないかというふうに思っていまして、そういうふうに将来性のあるところに早くお金を届けたい。これは需要と供給の両面の問題解決を同時セットする方向に恐らくつながるんではないかというふうに考えているわけでございます。 ○大門実紀史君 需要をどう起こすかというところはちょっと総裁と考え方違うんですが、いずれにせよ、今ずっと与党の方々の一部ですかね、一部かどうか分かりませんが、あるいはちょっとヒステリックな学者の方々がインフレターゲット、ターゲットと言うのをもし進めていきますと、本当にそのとおりどんどんどんどん土地から何から全部買っていきますと、それはもういずれ物価は上がると思いますよ。だけれども、さっき言った需要がこういう状況の中でもしそんなことをやったら、本当にもうスタグフレーションというか、全然違う話になってしまって、これはもう結局大変なことになってしまうというふうに私は思うんですよね。 それともう一つは、さっき言ったサプライサイドからやっぱり総裁も考えておられるのかと思うのは、さっき言われましたね、波及メカニズムがはっきりしないし、詰まっているから、それをもうちょっと磨きたいんだと。磨いたらそういう道もある。やれば効果が出るかも分からないと。 私は、幾ら磨いても磨きようがないと思うんですよ。一方通行のところで幾らその道だけ磨いても、その先が、需要がなかったら、受け手がなかったら、例えば中小企業の売り掛け債権の担保証券ですか、あれも大体正常先だと言われているし、売り掛け債権だって、優良企業の、中小企業でも優良企業の売り掛け債権になると思うんですよね、今の枠組みでいくと、リスクの少ないところでいくと。そんなところはあんなもの使いませんよ。ほとんどあれ、私は使われないと思っていますけれども。 だから、幾ら波及メカニズムといいますか、一方通行の道を磨いても、あるいは、その道はもう詰まっているからといってヘリコプターからその先にお金を投げても、受け手が今そういう状況じゃないというふうに思うんですよね。やっぱり波及メカニズム云々じゃなくて、今の量的緩和の方向そのものにやっぱり私は無理があるというふうに思うんですが、どうでしょうかね。 ○参考人(福井俊彦君) 売り掛け債権のところにつきましては、優良な債権だけを我々は対象にするのか。 少し厳密に申し上げますと、例えば中小企業が相手先企業に物を売ってまだお金を受け取っていない。この物を売ってお金を受け取っていない企業は信用度が仮に低いといたします。つまり、おっしゃるような優良先でないと。しかし、物を売って、まだお金を払っていない人が優良先、これは結構あるわけですね。つまり、信用度の低い企業が信用度の高い企業にたくさん物を売って、まだしかしお金を受け取っていないと。これは私どものフレームワークでは、お金をこれから払わなきゃいけない人たちが信用力のある人ですから、きちんと対象になってくるわけです。 つまり、売り掛け債権をこのまま今までの流儀でファイナンスを受けようと思うと、あなたは信用度が低いからと金が借りられない人ですけれども、新しいフレームワークでは払い手が信用度があるんだから、これはフレームワークに乗せましょうという話なので、やはり従来とはちょっと違った側面を出しています。 新しい事業をこれからやっていく人で、当初は信用がそんなに十分確立していなくても、ファイナンスを付けていきたいという我々の希望の一端はこの中からすくっていけるんじゃないかと、そういう大変地道なところから考え始めておりまして、優良先だけ相手にするという、そういう単純な話ではございません。 ○大門実紀史君 今日はその議論をするつもりはなかったんですが、こういうことだと思うんですよ。 例えば、トヨタの下請、松下の下請、これは相手先は優良企業ですから、売り掛け債権も優良だと。これは当然対象になるかも分かりません、その企業そのものは小さな町工場であっても。ところが、そういう企業はわざわざ、松下からお金をもらえるのがはっきりしているのに、間違いないお金なのに、それをわざわざ証券化するということは余り考えられませんよという意味で、実体経済の中で私は余り使われないんじゃないかと。日銀がもちろん中小企業のことを考えていただくのは非常に結構なんですけれども、そういう意味で申し上げているわけです。 先ほど、資金がどこに使われるか、どこに動いているかというところの話に移りたいと思うんですけれども、私は、先ほど冒頭に言いました、心配しておりますのは、日銀が非伝統的手法といいますか、国債、株の買取りまで踏み込んできたと。これがどういう意味を持つかなんですけれども、一言で言いますと、一遍こういうことに手を染めると、一遍ここに踏み込むとなかなか抜け出せませんよと。一遍道を踏み外すとなかなかまともな道といいますか、戻りにくくなりますよということをちょっと具体的に指摘したいと思うんですけれども、指摘したいといいますか、そういう不安がある、懸念があるということなんですけれども。 例えば日銀の国債購入ですけれども、これ、少し数字を幾つか述べさせてもらいますが、国債発行残高、先ほどもお話がありましたが、もう四百五十兆ぐらいになっていますね。これは十年間で二倍になっています。これは財務省の試算によりますと、十年後にはもう八百兆を超えるんじゃないかという試算まで出ています。要するに、日本は国債をこれからも大量に発行していかないとやっていけないような状況にあるというのは、これは共通の認識だと思います。 このことは、何が起きているかといいますと、これは御存じのとおり、国債の流通市場、大量に発行される国債を消化しなければいけない状況ですね。これは消化していかないと大変なことになります。結局は長期金利が上がってしまうというようなことにつながりますよね。だから消化しなきゃいけないと。だから、今、国債をどう消化するかというのが財務省なんかでは一番、一番といいますか、かなりこれからの戦略を考えているところだと思うんですけれども、この国債の保有高ですが、もう時間の関係で結論だけ申し上げますと、日銀の資料にもありますけれども、大体公的部門がもう半分、残高の半分を保有しているという段階ですね。ですから、民間よりももう半分になってきていると。その中で、これも資料を日銀からいただきましたけれども、日銀の国債購入はずっと増加してきています。更に言えば、財投のことも申し上げようと思ったんですが、財投のことでいえば縮小の方向になりますし、民間の方もこの間引いていますから、要するに日銀の、日銀が国債を消化するという役割が徐々に今高まってきていると。これは間違いないと思います。 こういうような、全体として国債を発行していかないと日本がやっていけないと。その引受け手の役割が日銀がだんだん増してきていると。僕はこれは非常に怖いことだと思っているんですね。これで日銀がどこかで、もう国債これ以上買いませんとか増やしませんと言うだけでもかなりの、それこそアナウンス、マイナスのアナウンスメント効果出ると思いますけれども、こういう圧力というのは強まっていく方向になりませんか。日銀が国債を買っていかなきゃいけない、減らすわけにいかなくなってくると。その辺の認識はいかがですか。 ○参考人(福井俊彦君) かれこれ明確に区別することがなかなか難しいんですけれども、日本銀行が国債をマーケットから買い入れておりますのは、必要な流動性の供給という判断基準でやっております。財政に対してファイナンスをするという観点からは、そういう買入れの仕方はしないと。物の考え方としてそこは峻別いたしております。 したがって、そこに対して明確な基準を設けることはなかなか難しいんですが、現在設けているのは、銀行券の発行残高の範囲内と、こういう歯止めを設けているわけですね。これはずっと以前から、長期国債のオペレーションというのは、いわゆる成長通貨、通貨の底だまり部分の増加部分を供給する場合に、その範囲内では国債のオペレーションを対象にするという考え方の一つのバリエーションのような形になっていると思いますが、そこに歯止めを設けていると。この歯止めを外したらどうかという御要請がございますけれども、そう軽々に外せないというふうにお答えしているのはそういう趣旨でございます。 ○大門実紀史君 その歯止めが、健全な歯止め、基準なのかどうかというのは意見が分かれるところ、そもそも意見が分かれるところなんですけれども、それはもう絶対、最低限そこは外すべきじゃないと思います。 もう一つ、国債の利回りの関係も調べてみたんですけれども、もう国債、先ほどありました、もう〇・六だとか何かになってきていますね。これは、実は四大銀行グループの資金調達コストがもう〇・八六ぐらいですから、四大銀行以外のところが国債を買うとなるともう逆ざやが生まれつつあるという状況ですね。つまり、例えば三十年国債なんか利回りが一・三ぐらいまで下がったことございますけれども、これは生保が新規契約の平均予定利率が一・五ですから、生命保険会社にとってももう逆ざやに国債なるということも一時生まれたと。今そういう状況ですよね、国債利回りというのが。 そうしますと、民間のそういう国債を受けてたところが、なかなか国債が、調達コストの方が高く掛かって、これから引き受けていくということが実際上しにくくなると。そういう面からもまた日銀の役割といいますか、期待されるといいますか、日銀、外してもっと買えという圧力が私は強まる方向にこそなれ弱まることはないんじゃないかと思うので心配しているところです。ですから、これ以上触れませんが、きちっとした基準を設けてそういう圧力には屈しないでもらいたいというふうに思います。 もう一つ心配なのは、銀行株の買取りの方もそうなんですけれども、これもなかなかいったん踏み込めば抜けるに抜けられない、今の株価ですと、そういう状況が生まれつつあるんじゃないかというふうに思います。 これはこの財政金融委員会でも議論いたしましたけれども、政府の方の銀行株の保有株式取得機構、株の買取り機構ですね、これが去年設立されたんですけれども、我が党はそんなばかなもの作るなと言って反対したんですけれども作られました。で、やっと二千二百億ですか、買取りをやって、これは買取り予定が二兆円とかいうことですから十分の一ぐらいしか使われていないということですね。それで、使われていない理由が、これはこの委員会でも議論になりましたけれども、売却時に八%の拠出金を取られるとか、あるいは、買取り機構に売ってもBIS基準からすると分母から外されない、つまり自己資本比率が改善しない、これがネックになって買取り進んでいません。そういう中でこれだけの株価下落してきますと、日銀にもっと株買ってもらえと、この圧力も弱まることはないと、強まっていく方向になると思うんですよね。 これは、二兆円を今三兆円ですか、されましたけれども、これは三兆円というのは守られますか。 ○参考人(福井俊彦君) 銀行株とおっしゃいましたけれども、厳密には銀行保有株ということでございますね。 そもそも日本銀行が銀行の保有している株式を買い入れる目的が、株価の買い支えということではないと。株価の変動が銀行経営に対する影響をやっぱり遮断したい、そういうことでなければ金融システムが余りにも脆弱なのでそこにショックが及び過ぎるという、そこを防圧するために日本銀行としてはやむを得ずある程度身を挺してそこをカバーしたい、つまり金融システムを守るためにカバーしたいと、こういう買い出動なんでございます。わけても金融機関は自己資本のうちのティア1相当額を超えて持っている株については一定の期間内に売却しなきゃいけないということでありますので、その売却を促進するために、マーケットで売りにくい部分もありますので日本銀行が吸収しようと。 当初は、昨年の秋に、私が着任する前ですが、日本銀行がこの措置に最初に踏み切ったときには、マーケットでの消化分、それからおっしゃいました政府での買取り機構による対象分、そして日銀の分と、どういう割り振りになるか実際の推移が分かりませんから、大体三分の一ずつというふうに考えた場合に、日本銀行は二兆円ぐらいの枠を用意しておけば十分な受皿になるのかなと、こう思ってスタートしたわけですが、現実には政府の方の買取り機構への売却が余り進んでいないということでありますし、市場での売却もなかなか難しいという状況でありまして、かなり日本銀行の方の買取り枠については球を投げ込んでくる金融機関が多いと。で、イラクの戦争が起こってその後の予想されたショック等も考えますと、場合によってはティア1を超える金融機関の保有株についてはそのかなりの部分を日本銀行が吸い取るというぐらいの覚悟を持つ必要があるのかなという判断に立って一兆円追加いたしました。 現在三兆円という枠は、今の時点で考えましても、金融機関が持っていますティア1を超える保有株の部分はほとんどすべて日本銀行が吸収し得るというふうに思っていまして、それ以上に日本銀行が踏み込んで株式を買い入れる必要性を感じていないということでございます。 ○大門実紀史君 私は、ともかくこのデフレ克服は民間主導でやるのが本筋だと思うんで、そういう変な圧力は来たら跳ね返してもらいたいし、それでずるずるやっていくともう日銀が、何というんですか、財政機関化してしまうといいますか、中央銀行じゃなくなってしまうと思いますので、頑張ってもらいたいというふうに思います。 もう一つは、ところが日銀がじゃぶじゃぶに供給したお金がどこに使われてきたかという話で、資料をお配りさせていただきました。 これはアメリカとの、米国経済との関係なんですけれども、要するに今、米国の財政というのは大変な状況になっています。双子の赤字と言われていますが、経常収支も含めて財政も両方とも大変です。その財政の方のお話だけいたしますと、とにかく税収が減ったり株価バブルが崩壊する、それと、お手元の表の一にありますとおり、この間、対テロ戦争ということで軍事費がずっと伸びているということで、これはアメリカの財政ですけれども、とにかく急速に米国財政が赤字になってきております。 ところが、米国は貯蓄率が低いということと経常収支赤字ですから、海外から資金を調達するしかないわけなんですが、ではどこから調達しているかと。これは主な調達先は日本です。表の二番にありますけれども、断トツに日本がアメリカの国債を保有していると。この間ずっと買い増やしております。例えば、ドイツ、フランス、イギリスというのは、これはユーロ発足したり、あるいは一定の景気持ち直し、あるいはドル安見込んでといういろんな要素はありますが、とにかく引き揚げています、今ヨーロッパは。ところが日本は一生懸命米国債を買って、先ほど言いましたアメリカの財政を支えてきているということがお分かりになると思います。 二枚目に、もう少し具体的な中身ですけれども、これは米国の、アメリカの二〇〇二年の会計年度、一年間のアメリカの赤字、一番左が赤字ですけれども、差引き千五百七十七億ドル、前会計年度で赤字を生んだと。その間に日本は米国債を四百七十億ドル買っています。つまり、アメリカが出した赤字の約三割ですね、三割を日本が一生懸命米国債買って赤字を埋める手伝いをしているということです。一番左に外貨準備、これは外貨預金も入りますので、それも五百五十億ドル増えていると。 つまり、私申し上げたいのは、日本の中ではじゃぶじゃぶに供給して、民間に回らないと、お金が回らない、中小企業には銀行は貸し渋りをすると。ところがそのお金は、もちろん一つは先ほど申し上げました国債に回るわけですが、もう一つはこうやってアメリカの財政を支えるところに回っていると。そのアメリカは今度大減税をやるとか、日本国民も七割が反対いたしましたけれども、イラク戦争をどんどんお金使ってやると。何でそんなことに、回りめぐってかも分かりませんけれども、日銀が一生懸命実体経済を良くしようと思ったお金が回っていかなきゃいけないのかと。これは国民感情からいっても何かしっくりこないといいますか、非常に異常な形になっていると思います。 もちろん、お金というのは投資効率の高い方、利息の高い方に流れますから、結果としてこうなったといえばそのとおりなんですけれども、私は、日米の資金循環、ずっとこの間ちょっと調べているんですが、非常に今異常な形になっていると。外貨準備が、もう必要以上の外貨準備、日本持っておりますけれども、それはほとんど米国債、ほとんどといいますか大部分米国債ですが、それが、このアメリカがこういうことをやっていると。日米の資金循環が非常に異様な形ではないかと、諸外国に比べて。それが、この間の日銀の量的緩和でじゃぶじゃぶに供給したお金がこんなところに回っていると。 こういうことについて、総裁はどういうふうにお考えですか。 ○参考人(福井俊彦君) 米国に対するこういう形での資金の流入、つまり米国債の日本からの買入れの増加という傾向が続いているということは、もう御指摘のとおりだというふうに思います。 いろいろなバックグラウンドがあると思いますけれども、私は、一番大きなのは、日本の経常黒字が、大きな経常黒字がなお続いている、特に対米の黒字が続いていて、黒字の結果受け取った外貨を、つまり米ドルをそのままアメリカに運用している。これは民間部門においても運用している。その中身に米国国債のウエートが高いというふうな状況を反映しているんではないかと。 当局はともかく、民間部門が引き続きアメリカにこういう形で証券投資をし続けているということのまた背後には、米国経済は再び双子の赤字を大きくしつつあるとか、ハイテクバブルの崩壊の後、アメリカ経済がどれぐらい強く立ち上がるかまだ不透明であるとかいうふうな問題が出てきている中にあっても、まだ基本的な信認を米国経済は失っていないという大きな背景があるのかなと。したがってこういう資金循環の流れができているというふうに思っていますが、それに加えまして、恐らく、日本は今金融の超緩和をやっております。米国の金利もかなり下がってきておりますけれども、日本の超緩和の方が大幅だということで、米国と日本の間の金利差、結構大きいと。したがって、そういう金利差の違いから資金がアウトフローしている部分がやっぱりあるかもしれない。 もう一つは、日米の実体経済の先行き感、景況感の相違ということも、やはりまだ日本の景気の先行きが米国に比べて心配の種が多いというふうなことから米国の方に資金が少し流れているという部分が、国際収支要因をベースにしながらも、上乗せ要因としてそれが加わってきているであろうというふうに考えています。 ○大門実紀史君 もう時間なくなりましたので最後にいたしますが、金利の問題でいえば、この前、G7の前に、テーラー財務次官ですか、日本の一層の金融緩和を求めるという発言をされておりますが、もちろん日本の景気良くしてくれという意味もあるんでしょうが、今総裁おっしゃいました米国との金利差といいますか、カントリーリスクの問題考えると、日本の方が金利が低い方がアメリカにお金が流れるからと。これはもちろんそういう意味もあったと思いますけれども。ですから、これはもうプラザ合意から始まっているんでしょうけれども、そういう、金融緩和してくれしてくれというアメリカの長い間の要求というのがやっぱりこの資金循環にも現れていると。アメリカに資金を引き込みたいという結果ですから、必ずしも自然になってきたというわけじゃなくて、非常に政治的なバックグラウンドがあるというふうに私思います。 その中で心配されるのが、先ほど言いました国債の利回り下がりますと、民間の機関投資家が米国債に流れて、国債を売るかどうかは別として、一遍にたくさん売るかどうかは別として、日本国債から米国債にもっと切り替えていこうという流れが強まれば、日本国債を支えるためにまた日銀が国債をもっと買えという圧力が強まりかねませんし、日銀そのものが直接米国債を買ってほしいというふうな要求、今まではなかったと思いますが、そういうことが強まる可能性も、日米経済、日米間の関係でいくと要請は強まってくる方向になると思うんですけれども、そういうことにおこたえになっていくことはないと思いますが、ちょっと確認の意味で、どうお考えかお聞かせください。 ○参考人(福井俊彦君) 根幹はやはり日本経済に対する信認ということだと思います。日本経済に対する信認が損なわれれば、やっぱりそういう資金の流れもどうしてもゆがみを、ひずみを伴うような資金の流れが起こってしまうということですので、そういうことがないように、少なくとも日本経済の基本的なところでの信認維持ということだけは、これは死守しなきゃいけない。 今、我々が金融緩和を進めて、必死になって経済の持続的成長パスへの回帰、デフレ脱却というのを進めているのもそういう意味であって、そのやり方がまずくて、かえって信認を損なうというふうなことになってはならない。大変そういう意味では狭い道、脆弱な道を歩んでいくことになっているわけですけれども、したがって日本銀行も普通では取らないリスクまで取りながら進んでいるということで、極めて危険な道を歩んでいるということは十分承知しながら、しかしやっぱりこの道は渡り切らないと日本経済の信認は回復しないと、こういうふうに思ってやっております。 |
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