<議事録>
○大門実紀史君 大門です。
植田総裁、連日御苦労さまでございます。
黒田総裁のときは、もう毎回、異次元金融緩和から方向転換すべきだということと正常化に踏み出せということで、本当に毎回厳しい質疑をさせていただきましたけれども、植田総裁は大変難しい情勢の下で正常化に向けて果敢に努力されているということで、とにかくお体気を付けて頑張ってほしいなということしかございませんが、今日は少し違う話をさせていただきたいと思います。
今、参議院選挙前で各党が経済政策、その際、財源論というのが一つの焦点になっております。その中で、もっと赤字国債を発行して日銀に引き受けさせ、もっと財政支出をという主張もこの間特に強まっておりまして、そのベースにあるのがMMT、現代貨幣理論ということだと思います。
MMTというのは、日本の政府は通貨発行権持っているから、円建ての国債がデフォルト、返済不能になることはないと、したがって赤字国債が大きくなっても問題はないと、中央銀行による国債引受け、インフレになるまで大丈夫、それでいいですか。(発言する者あり)ということで、そういうものでございますが、仮にインフレになっても、国債を売って、売りオペですね、マネー回収すれば、あるいは増税すれば抑えられるというようなことだと思います。
実は私、このMMTには心情的には大変シンパシーがございまして、出てきた背景といいますか、特に中心になって提唱されたのが、西田さんとかお招きになりましたが、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトンさんですよね。御本読んで、私大好きでございまして、要するに、アメリカの新自由主義が強まって、緊縮財政が強まって、格差が広がってアメリカ国民が大変な思いをしているというときに、国民のためにもっと財政支出をすべきだと、いろいろやるべきだというふうなことで民主党左派の方々に採用された理論ということで、どちらかというと左派の、左派の議論ですね。日本では右派の方のあれですけれどもね。ただ、心情的には分かるんですね。そういう、本当に国民に緊縮を押し付けてきた財政当局に対して、もっともっと借金してでも国民のためにやれという意味はよく分かります。
そのMMTについては、この委員会でも、六年前ぐらいですかね、二〇一九年、大変な議論になりましたね。当時、非常にちょっとブームになったんですね。各委員の皆さん、私も当時、黒田総裁と議論して、MMTの肯定派とか否定派とか慎重派とか様々な議論がありました。この点だけは西田先生と意見が違うんですけれども、六年前に様々な議論あって、ちょうど私、六年前の議事録読んでいたら、途中で発言する者ありって出てくるんですね。あれ西田先生でございまして、懐かしいなと思って読んでいましたけれども。
とにかく、ただ、日銀にもっと国債をという流れは六年前より今の方が実質的に強まっているんじゃないかというふうに思いますので、改めて植田総裁にお聞きしたいというふうに思います。
ステファニー・ケルトン先生もおっしゃっていましたけど、既に日銀がやってきた異次元の金融緩和そのものがMMTではないかという意見が、見方がございます。先日も、ある、経済専門家と言った方がいいんですかね、という方と話していたら、いや、大門さん、実際日銀がMMTやったじゃないですかというふうに言われる方がまだ、まだというか、いらっしゃるわけですね。
その点で日銀自身に聞きたいんですけど、日銀の異次元金融緩和というのはMMTの実践だったのか、違うならどこが違ったのか、簡潔に御説明願えますか。
○参考人(植田和男君) 私ども、二〇一三年から昨年春にかけて行っておりました大規模金融緩和ですが、これは二%の物価安定の目標を持続的、安定的に実現するという観点から実施してきたものでありまして、仮に異次元の金融緩和はMMTの実践だったという見方が、日本銀行がこうした金融政策上の目的を超えて財政を支えるために国債買入れや低金利政策を進めてきたということであれば、そうしたことはございません。実際、私ども、昨年三月に大規模金融緩和の枠組みを見直し、その後も政策金利の引上げや国債買入れの減額を進めてきたところでございます。
○大門実紀史君 私は、ただ、今、植田日銀は方向転換ということなんですけれども、黒田さんがやってきた十年間というのは別にMMTと、その実際の起きたことでいえば、MMTの手法と変わらないと思います。ただ、国民の暮らしは良くならなかったということは言えるんではないかと思いますね。
実は、先日も、このMMTを主張される経済学者の方と私非常に親交がありまして、率直にいろんな議論する関係で、別にいろんな理論があっていいわけですよね、理論的にはですね。ただ、私、現実に、MMT理論、現実に適用するところに大変ちょっと無理があるんじゃないかと思っているだけなんですけれども。その点で、MMTを主張される人たちはインフレになる可能性は否定されないんですね、インフレになることあるだろうと。ただ、インフレになっても、先ほど言いました売りオペをして通貨を回収するとか増税するなどの手段で抑えることができると。私はそれが難しいんじゃないかという考えなので、現実的な政策で採用するのは無理じゃないかというところが違いなんですけれども。
現実問題として、アメリカの例もありましたけど、一旦インフレ、高インフレになったら、私はそんなに簡単に抑えることはできないと思うんですけれども、日銀としてはいかがですか。
○参考人(植田和男君) 例えば、中央銀行による国債の引受け等で財政支出を拡大し続けた場合に、初めは問題がないという場合もあるとは思いますが、次第にコントロールが利かなくなり、結果的に大幅なインフレにつながり、国民生活や経済活動に大きな打撃を与えたという歴史上の例はたくさんあるものと理解しております。
また、違う、より一般的な観点から申し上げますと、もしも物価安定の目標を大幅に上回る物価上昇率が社会に定着するようなことになってしまいますと、目標に向けて物価上昇率を押し下げるためには非常に緊縮的な財政金融政策が必要になる可能性が高いというふうに思います。
○大門実紀史君 私は、そもそも日銀というのは、国債の買いオペ、売りオペ、国債を通じて物価のコントロールということがあると思うんですね。そうすると、国が赤字国債どんどん発行して日銀が引き受けざるを得ないという状況になると、国債の売り買いのコントロールができない、だから物価のコントロールができなくなるという基本的な問題が一つあるような気がするのと、一旦、この前のアメリカがそうですけど、なかなかインフレ抑えられませんでしたよね。一遍起きますとそう簡単に、こういう政策を取ったらすぐインフレ抑えられるということはなかなか現実問題難しいと思うんですよね。ましてや増税、インフレで物価が上がっているときに増税をやるということは、国民の暮らしにとっては大変なことですよね、増税、インフレのときに増税されるということはですね。
したがって、いろいろちょっと理屈の上では成り立つことも現実的には難しいのではないかということを思って、そこが違いですねということでMMTの学者の方とは議論しているところでございます。
もう一つ、これが一番危惧されるところなんですけど、この間の日銀、国の国債発行がずっと増えるか、あるいは減る方向になるのか、日銀の国債引受けが買うのか、あるいは減額していくのかという、いろいろありますよね。これ全て、マーケットが注視しているわけですよね、金融市場が。この間の超長期国債の金利の急上昇も、これ実はマーケットがいろいろやるからこうなっているわけですね。現実の市場の動きというものがあるわけですね。
したがって、このMMTの論でいきますと、非常に財政通貨論に集中し過ぎて、生の世界、生のこの動いている世界、巨額のマネーが利ざやを求めて一瞬のうちに何十兆円動かすというような貪欲な金融マーケット、投機マネーの世界がどうも視野に余り入っていなくて、日銀の動向あるいは国の信認がどうなるかというのはマーケットが判断して、そのことによっていろんな、付け入る隙といいますか、そこでターゲットにしていろいろやって国債の暴落を仕掛けると、かつてあったわけですね、空売りもやるわけですよね、この観点でですね。
そういうことがあるので、私は、このMMTの一番ちょっと抜けている点は、金融マーケットを実際の中で考えるべきだと、現実の中で考えるべきだというふうにこの間の長期金利の、超長期国債の金利の上昇を含めて考えるんですけれども、そういう現実のマーケットとの関係でいかが思われますか、MMTについて。
○参考人(植田和男君) 余り具体的にはお答えしにくいですが、過度な投機的なマネーの動きによって金融資本市場が大きく不安定化するような事態を避けるためにも政府が中長期的な財政健全化について市場の信認をしっかりと確保していくこと、それから、私ども日本銀行が物価の安定という目的を実現するために金融政策を運営していくこと、これが極めて重要であると考えております。
○大門実紀史君 決して財務省のような緊縮的なことに賛成というわけではございません。国民の暮らしを良くして、経済良くしてということが大事で、そのときに必要な財政支出はやるべきだということと、赤字国債まだまだ発行できる論はちょっと違うのかなという点を申し上げたかったわけでございます。
これで質問を終わります。