<公述人>
一般社団法人日本経済団体連合会常務理事 根本勝則君
NPO法人アジア太平洋資料センター代表理事 内田聖子君
横浜国立大学名誉教授 萩原伸次郎君
医師 住江憲勇君
<公述人の陳述>
○公述人(根本勝則君) 経団連常務理事の根本でございます。
本日、このように意見陳述の機会を与えていただきましたことに、まずもって感謝を申し上げます。
TPPをめぐりましては各国に様々な動きがございますけれども、こうした時期であるからこそ日本がリーダーシップを取るべきであるという立場から意見を申し述べさせていただきます。
経団連では、昨年の一月、二〇三〇年までに日本が目指すべき国家像を描きました将来ビジョン、「豊かで活力ある日本」の再生、これを公表したところでございます。天然資源に乏しく、少子化、高齢化による労働人口の減少に直面する我が国でございますけれども、この再生の大きな鍵を握っているのはイノベーションとグローバリゼーションであるというのが私どものビジョンが打ち出しているメッセージでございます。
いかにしてグローバル化を進め、海外の活力、成長力を取り込むのか。ビジョンでは、二〇二〇年までにEPAの相手国が我が国の貿易総額に占める割合を八〇%程度にまで引き上げ、二〇三〇年までにそうしたEPAの成果を取り込んだ高水準の多角的自由貿易投資体制を確立する、こうした目標を掲げたところでございます。
そうした目標を達成するために直ちに取り組むべき課題の一つとして掲げましたのが、TPP協定の早期実現でございました。経団連は、TPPを始めとする経済連携協定の推進を、WTOを中心とする多角的な自由貿易体制の維持強化と並びます貿易・投資自由化のための車の両輪と考えて取り組んでまいりました。現実には、WTOドーハ・ラウンドがなかなか答えを出せない中にありまして、各国ともEPAのネットワークの拡大に力を入れておりまして、我が国が国際競争でこれ以上不利な立場に置かれないためにはEPAの一層の推進が急務と考えるところでございます。
しかしながら、これまでに我が国が締結いたしましたEPAの相手国が貿易総額に占める割合、これは約二三%にとどまっているところでございます。自動車、エレクトロニクスといった基幹産業において我が国企業と激しい競争を行っている韓国の貿易総額に占めるEPA相手国の割合は六七%であり、大きな差がございます。TPP協定が実現すれば、これが約四〇%となり、約三〇%のEU、三八%の中国を超え、米国の四七%に近づくことになります。
我が国産業の空洞化を防ぎ、投資先としての魅力を高め、本格的かつ持続的な成長軌道に乗せるために不可欠であることがお分かりいただけるのではないかというふうに考えるところでございます。TPP協定の速やかな承認、発効への努力を引き続きお願いするゆえんでございます。
経団連では、政府部内でTPP交渉への参加の検討が始まりました二〇一〇年から、一貫して協定の早期実現を強く働きかけてまいりました。二〇一〇年三月に米国、豪州を含む八か国が交渉を開始するに及んで、その直後の六月には交渉参加を経団連として提言もさせていただいているところでございます。結局、我が国の交渉参加は二〇一三年七月まで待たなければなりませんでしたけれども、この間、様々な誤解や根拠のない懸念が広まりました。しかしながら、交渉参加後は広く情報提供を行う機会を設けるなど、政府、民間双方において努力した結果、そうした誤解や懸念はかなり払拭できたのではないかというふうに考えているところでございます。
我が国の交渉参加から昨年十月の大筋合意までの二年余り、経団連では、協定に盛り込むべき具体的な要望を政府に提出をさせていただく一方、内外の経済団体と連携をいたしまして共同提言を取りまとめ、各国政府に働きかける等の活動を行ってまいったところでございます。
また、交渉会合が開催される現地に代表団を派遣いたしまして、交渉の推進を働きかけてまいりました。その一環として、交渉が大詰めを迎えました昨年の夏から秋にかけての閣僚会合の際には、経団連副会長を始め幹部が現地入りし、各国の経済界とも連携しながら歴史的な合意を後押ししてきたと考えております。
経済界は本当にTPP協定の実現を望んでいるのか、余りそういう声を聞かないという御批判があるとすれば、専ら私どものPR不足が原因でありまして、この機会に改めて経済界から見た協定の意義について続いて御説明をさせていただきたいと存じます。
協定の意義は、大きく分けて経済的な意義と戦略的な意義の二つがあると考えております。
まず、経済的な意義についてでございますが、三点指摘をさせていただきたいと存じます。
第一に、世界のGDPの約四〇%、八億人の自由で公正かつ巨大な市場が誕生するということでございます。この市場の活力を取り込むことで、政府、世界銀行、民間の研究所、それぞれの試算によりますと、我が国のGDPは約二・五%から二・七%押し上げられるという試算がございます。
第二に、成長著しいアジア太平洋地域に高度なバリューチェーンを構築することを容易にする制度インフラ、これを獲得できるということでございます。
例えば、基幹部品を我が国で生産し、それを東南アジアにおいて東アジアで生産された部品と合わせて組立てを行い、完成品を米国で販売するといった水平分業がビジネスの現場では進んでいるところでございます。TPP協定では、こうした複数の国にまたがって作られる製品については、累積原産地規則の下で、言わばメード・イン・TPPとして認定することによって、関税の引下げ、撤廃のメリットを享受することができるようになります。その結果、高付加価値の基幹部品について日本国内の工場での生産を維持することができますし、日本にとどまりながらグローバル化のメリットを享受することも可能となりますので、日本国内への投資を促し、雇用を生み出すことにもつながると考えております。実際に会員企業からは、TPP協定は、新技術、新製品の開発を担う国内マザー工場の維持強化、先端技術の海外流出の防止、国内雇用の維持につながるとの期待を耳にしているところでございます。
第三に、TPPは貿易や投資に関する広範かつ高度な水準のグローバルなルール作りをリードする二十一世紀型の画期的な協定であるというところでございます。
例えば、電子商取引に関するチャプターでは、国境を越える情報の移転の確保、サーバーなどコンピューター関連設備の自国設置を求めることの禁止などが盛り込まれております。これによりまして、映画やゲームなどのコンテンツをインターネットで提供するサービスなどを行いやすくなるものと考えているところでございます。こうした時代に即したルールがTPP協定に盛り込まれたことによりまして、他のEPA交渉やサービス貿易に関する協定交渉にも既に波及効果をもたらしていると感じておりまして、TPP協定が実現すればグローバルなルール作りが更に加速するということが期待できると考えます。
また、新興国の一部においてはコンピューター関連設備の自国への設置を要求する国内法を制定する動きが見られますが、これに対して、最近も日米欧、豪州、カナダなど、四十以上の経済団体が結束して反対の声を上げております。そうした結束を容易にしている背景にも、TPP協定における合意があるものというふうに感じているところでございます。
以上申し上げましたような経済的な意義を有するTPP協定を積極的に活用し我が国経済を成長軌道に乗せることこそ、成長戦略の要であるというふうに考えます。そのため、経団連では、大企業のみならず、中小企業、農業生産法人、労働組合といった多様な関係者の御参加を得まして、TPP協定の活用を促すシンポジウムを開催するなどの取組も行ってきたところでございます。また、TPP協定によりましてアジア太平洋地域に自由で開かれた予見可能性の高い経済圏を実現することは、昨今の反グローバル化や保護主義の伝播を断ち切るためにも必要であるというふうに考えております。
次に、TPP協定の戦略的な意義について申し述べます。
経団連としては、TPP協定を、自由、民主主義、法の支配、市場経済といった共通の価値観、原則に基づく経済秩序づくりの一環であると捉えております。また、アジア太平洋地域の安全保障において重要な役割を果たしている米国、日本、豪州を含む経済連携のネットワークがつくられることは、この地域の安定と繁栄にも大きく貢献するものと考えております。
ベトナムのグエン・クオック・クオン大使は、経団連の機関誌への寄稿の中で、TPPへの参加により太平洋の両側の国々との連携が深まり、この地域の重要なパートナーとベトナムとの長期的なパートナーシップが構築され、利益を共有できるようになると戦略的な意義を語っておられるところでございます。
発言の最後に、中小企業と農業にも一言触れさせていただきたいと存じます。
先ほど申し上げましたTPP協定の経済的な意義は、大企業ばかりでなく、中小企業にも当てはまるものと考えております。実際、経団連のシンポジウムに参加され、既にベトナムで事業を行っておられる中小企業の方からは、TPP協定は中小企業にとってフォローの風であるという御発言をいただきました。先ほど申し上げました経済的な意義のほか、税関手続等の貿易円滑化のための規定は、中小企業の輸出拡大に貢献するものと考えているところでございます。
農業につきましては、粘り強い交渉の結果、日本からの農産品の輸出には関税が掛からなくなる一方、我が国は二割弱の農産品について関税を維持することとなり、我が国の事情を踏まえた結果になったのではないかというふうに考えております。今から力を注ぐべきは輸出と海外展開の強化であるというふうに考えます。この点、経団連といたしましては、去る九月に提言を取りまとめ、公表しておりますけれども、今後は、農業界と経済界との連携において、輸出、海外展開にもつながるプロジェクトの創設、創生、形成にも取り組んでいきたいと考えているところでございます。
今週初め、トランプ次期大統領は、米国民向けのビデオメッセージで、大統領就任初日のTPP協定からの離脱に言及をされたと聞いております。残念と言わざるを得ませんけれども、この点につきましては、余り予断を持たず、まずは我が国を含めた参加各国が国内手続を進めていくことが将来への道筋を開く上で重要であると考えます。経済界としても、TPPの経済的な意義のみならず、アジア太平洋地域の平和と安定に重要な役割を果たすという戦略的な意義を機会あるごとに訴えてまいりたいと思います。
私からは以上でございます。ありがとうございました。
○委員長(林芳正君) ありがとうございました。
次に、内田公述人にお願いいたします。内田公述人。
○公述人(内田聖子君) 私は、アジア太平洋資料センターと申しますNPO団体で代表をしております内田と申します。
私たちの組織は日本に基盤を置く国際NGOですが、八〇年代以降の新自由主義の促進や自由貿易、投資の自由化の推進がもたらした負の側面について、途上国、先進国の市民社会とともに調査研究や発信、政策提言を続けてきました。TPP以前のWTOですとか多国間投資協定、現在ではRCEPやTiSA、新サービス貿易協定等々のメガFTAにも着目をしております。
今TPPが直面している状況というのは、まさに過去三十年の自由貿易推進の歴史の失敗を如実に表していると指摘したいと思います。その意味で、私たちは今まさに、今後の国際貿易の在り方、これを大転換を迫られているという歴史的な岐路に立っている、まずこの大きな認識が必要かと思います。
TPPだけではなく、アメリカとEUの自由貿易協定、TTIP、それからRCEPも、そしてTiSAも、非常に交渉は難航し、進んでおりません。日本とEUの経済連携協定も同じです。
これは、例えば先日のイギリスのEU離脱ですとか、つい最近のアメリカの選挙の結果、トランプ氏が選ばれる、こういうところにも人々の政治的な意思として、自由貿易のやり方、ルール、フォーマットそのものがもう立ち行かないと、これを示している一つの証左であろうというふうに思っております。
今日はTPPの中身の問題点を十分に指摘をしたいと思っておりますが、やはりその前に重要な点を申し上げたいと思います。それは、なぜ今この国会の中でTPP協定、関連法案が粛々と議論され続けているのかという点です。既に衆議院の段階からもそうでしたが、日本が急いでTPPをこの国会の中で批准をするという合理的な理由は既にありません。
私のレジュメ等々見ていただきたいんですが、外的な要因としては、アメリカの大統領選の結果であるとか、それからオバマ大統領の残存期間、レームダック、ここでの承認というのもほぼ可能性はゼロです。伴いまして、幾つかの国では、この大統領選の結果を踏まえ、当面は状況を静観するというような態度を取り始めた国もあります。
今日、マレーシアのムスタパ外相が出した声明というのも資料として付けておりますが、ここには、第六番目には、マレーシアは米国の次期政権の下でのTPPの行方を見極めていく、米国がTPPを批准しないと決定した場合、ほかの加盟国とともに次の方針について議論する。つまり、静観する、急がないという方針です。という外的な要因というのは幾つかあります。
ただ、これ、アメリカがどうとか、ほかの国がどうとか、そういうことで国会が左右されていいのかという論もあると思います。そのとおりと思います。
では、日本の国会でどうなのかということは、四月の国会も含めて、そして九月からの国会も含めて、この衆参の審議、私もできる限り見ておりますが、この審議を通じて見えてきた様々な問題があると思います。
一つは、TPPというのは大変膨大な領域をカバーする協定です。協定文だけでも八千ページ以上のページ数、それから分野も二十一分野にも至ります。この国会で、やはり農業の関税問題が中心になっておりまして、十分に全ての分野が熟議されたとは到底思えません。
それから、メリットがあるというようなこともいま一つ具体的ではなく、そして国民に行き渡るようなメリットがどこにあるのかという点が十分にまだ明らかになっておりません。
そして、問題点の方は野党の議員の方が次々と質問されておりますが、これは秘密交渉で、交渉のプロセスは今も開示されない、話せないという壁にぶつかって、十分にその経過が分からないものですから議論が深まらないんですね。
そして四点目は、やはりこの審議を通じて、TPPに入る、批准するかどうかという以前に、既に今の日本政府の例えば食の安心、安全に関する規制の状況だとかというのは非常に問題があるということが次々と指摘されてもおります。というように、とてもこのような議論の進行状況では、いいも悪いも国民的な理解を得られていないというふうに思います。
そして五点目としては、さきの衆議院のTPP特別委員会では強行採決というものが行われました。これは国民から見ても到底受け入れられない非民主的な決定だったと思っております。そして、こうした状況を受けて、世論は日に日にTPPについて疑念と不安を高めております。審議をすればするほど不安が高まる、分からないという方が多くなっている。そして、慎重審議を求める声というものも各種の世論調査で増えております。
そして最後に、トランプ氏の百日計画の発言、つい先日ありました。これを受けて、レジュメの七番に書きましたが、安倍首相自身が成長戦略を練り直さなければいけない事態にも至ったというような報道もあるほどです。これは確かにそうなんだろうと思います。アメリカの決定に日本も影響せざるを得ませんから、成長戦略全体を練り直さざるを得ないというところまで来ているわけです。
つまり、これまでは、TPPで成長するとか海外の成長を取り込むとかグローバルマーケット、いろんなことが言われていましたが、TPPは成長戦略の柱として位置付けられていました。その柱が発効するかどうかがほぼ絶望視をされているという中で何もなかったかのように批准を進めていいのかということが、これは私だけではなくて多くの国民の方が思っていると思います。ひょっとすると、政府・与党の議員の皆さんの中にも、なぜ今これをやるのかとどこかで思っていらっしゃる方がいるのではないでしょうか。
次の項で申しますが、ですから、私は批准というプロセスを一旦停止するしかないと思っております。これは承認のプロセスを全て破棄せよということではなくて、マレーシアが取った態度のように、一度立ち止まって静観をする、相手の出方を見ると。アメリカの市民、国民でさえ、今、新大統領に対してはこういうふうに言っています。シー・アンド・ウエートです。黙って見詰めて次の体制を取ろうと。アメリカの国民ですらそう言っているという状況の中で、どうして日本が国会で審議を進めるのかという問題です。
ですから、私はまず、今、参議院で公聴会を今日開いていただいているわけなんですけれども、やはり即座にこの審議を止めるということを御提案したいというのが一番の今日の強い思いです。
なぜそういうことを言うかというと、このTPPの発効がほぼ絶望視されていく中で、実は既に日本の中では様々な形で予算が執行されていたり、それからTPP発効を見据えて、つまりTPPを前提として様々な対策、それから例えば中小企業に対する投資をどんどん海外でやろうというような推進が各地で行われて、実際にそれを実行している企業さんなんかもあるわけです。あるいは、農家さんで、私全国歩いていろんな方聞くんですけれども、TPPが発効してしまえばもう農業続けられないと、TPPに背中を押されて農業やめましたという方も多数おられます。等々、これ実はもう影響というのは既に実際上起こっていてということを鑑みますと、これ以上こうした影響、TPPが発効するからという名の下に、これ以上の規制緩和や一人一人の方の生業や人生の選択にまで関わっているという事態を放置することはできないと思っております。
予算に関しては、東京新聞が一昨日報道いたしましたが、既にTPP対策大綱という下に予算が組まれています、一兆千九百六億円。このうち二〇一五年のものは既に執行されておりますし、二〇一六年のものも相当程度執行されているというふうに聞いています。
他国はどうなのかといいますと、ニュージーランドやオーストラリア、それからアメリカは当然そうですが、発効もしていない、それから批准もしていないという状態の中でTPP対策の予算を組んで執行しているような国などはありません。当然だと思います。その意味で、日本は極めて異様な、異常な状況をこの間つくってきたと言わざるを得ないと思います。
そして、いろいろと言いたいこともあるんですが端折っていきますけれども、日米並行協議の問題を私はやはりこのTPP発効が絶望視される中で非常に重要な危機として感じております。
御存じのとおり、日米並行協議というのは、日本が交渉に正式参加する前の二〇一三年四月にアメリカとの間で始めた交渉です。これは日本が参加するための前払あるいは入場料としてアメリカからの要求に相当程度応じた一方的で片務的な交渉だということは、これはTPPを推進している有識者の方でさえこのような御指摘をしております。
対象となる分野は非常に多岐にわたっております。自動車から、それから食の安心、安全、急送便、知財、投資等々、非常に多岐です。ところが、この全容はいま一つ明らかになっておりません。政府の公表している文書というのは手に入れておりますが、基本的には全部が開示されていないんだろうと思っております。
問題は、これが既に日本国内においては幾つかの分野では実現されてしまっているということです。私のレジュメの四ページ目辺りにいろいろと書いておりますが、例えば保険分野では、アフラックという米国の外資系企業が、かんぽ生命の新規参入を認めないということを決定して、そして日本の郵便局のネットワークを使って販売できるというようなことも実際に行われております。それから、食の安心、安全に関しても、既に規制緩和というのが、これ、ここに挙げているのは米国の要求ですけれども、進んでおります。
そして、その全容が分からない中で私たちもいろいろと調べているんですけれども、一つ大変気になる記述が、この「ドキュメントTPP交渉」という、これは日米の交渉それからTPPに関わった朝日新聞の鯨岡仁さんという方が最近出された本ですけれども、日米並行協議についてこのように書いております。二〇一三年に始まった並行協議、途中端折りますけれども、アメリカではカトラーさんというUSTR代表代行が来て、それから日本では外務省の経済外交担当の森さんという方が交渉していたんですが、ちょっとくだりを読みます。
カトラーは、日本側の外務省経済外交担当大使、森健良に要求リストを差し出した。その内容は、米韓FTAに盛り込まれたものに似た、法外なものであった。日本側は、TPP交渉に入る前の事前協議で、米国の自動車の関税撤廃をTPP交渉で最も遅いものとそろえるという条件をのまされた等々。いろいろと続くんですけれども、そして一番重要なのはこの一文です。しかも、カトラーは丁寧に、日本の法改正リストまでつくり、森に手渡したというふうに書いてあります。
こういう事実を国民は少なくとも聞いておりません。国会議員の方々も、こういうリストを作られて、法律の改正リストを突き付けられたということを御存じなのかどうか私は分かりません。ですが、こういうところにまでTPPと並行する協議の中でかなり攻められてきているという事実があります。
もう時間がないのでやめますけれども、この日米並行協議というのはそもそもTPPと並行して始まったものであり、政府の見解としては、日米並行協議はTPPが成立しなければ無効となる、意味を成さない、これが従来の説明でした。つまり、既に、TPP発効してもいない、批准もしていない中で、実際上私たちの社会というのは変えられてきているわけですね。あるいは、水面下でいろいろなことが攻められているわけですね。
発効しなかったら、じゃ、どうなるのか。それは当然、何もなかった状態に戻していただかなければ困りますという話になっていきます。この辺りが全く不明瞭でよく分からないという領域なんですね。ですから、TPPの行方がどうなるか分かりませんけれども、私は冷静に、発効しないときにこれらの責任をどういうふうに取るのか、そして原状復帰をどういうふうにして、そして次の体制にどうやって臨むのかということこそが、今、日本政府、与野党を問わず取り組むべきことであろうと思っております。
その他、中小企業へのメリットがTPPではやはりなく、むしろ打撃になるというお話もしたいと思っておりましたし、それからISD条項、これが大変私どもも懸念している分野であります。こういうお話もしたいんですが、時間になりましたので、できれば後の御質問でいただければ、詳細を御説明したいと思います。
最後に、私のレジュメの最後の部分をちょっと見ていただきたいと思うんですけれども、冒頭に申しました、今何が問われているのかという点です。
今ほど、各国、いろんな地域でこの貿易や投資というのが主要な政治課題になっているという時代はないと思います。非常に、アメリカを見れば分かるように、政治的な課題に貿易がなると。これはなぜかというと、これは冒頭申し上げたように、この三十年の自由貿易の歴史というものが、確かに大企業は多大な利益を得ています。租税回避等しながら肥え太っていったということがあります。しかし、問題は、それが人々に還元をされないということ。とりわけ日本では、賃金は九七年度以降上がっておりません。企業はもうけるんですが、人々は豊かになっていないと。格差が広がっている、あるいは地域間格差というのも広がっています。大都市に集中しているんですね、投資も、利益を蓄積していくのも。これは世界の各地で起こっている現象です。
このことの矛盾が露呈しているのがアメリカでの選挙の結果であります。たくさんの報道にありましたが、アメリカの地方都市で地域が荒廃して、仕事を失って、ラストベルトと言われているところですね、白人の労働者の人が絶望をしてトランプさんに投票すると。これはコミュニティーももうぼろぼろですよ。仕事もない。私はこの光景を、日本の報道を見ると、もしかしたら日本の近未来を表しているんじゃないかというような恐怖すら思います。
ですから、今どういう貿易が必要かという意味で問われているのは……
○委員長(林芳正君) 内田公述人、そろそろおまとめいただけますか。
○公述人(内田聖子君) はい、終わります。
大企業や投資家だけが利益を得る仕組みではなくて、どうやって公平な分配、それから地域の再生ができるか、こういう貿易の在り方をきちんと議論をしていくと。これは、国際的な市民社会それから国連や様々な専門家の間での共通のテーマに既になっているという意味では、日本も何とかそこにきちんとキャッチアップをして貢献をする、市民社会もそれから国会議員の皆さんも含めて、そういう意識で是非努力を私どももしていきたいと思っております。
時間が遅くなって済みません。以上です。
○委員長(林芳正君) ありがとうございました。
次に、萩原公述人にお願いいたします。萩原公述人。
○公述人(萩原伸次郎君) 横浜国立大学の萩原でございます。
去る十一月八日の米国の大統領選挙で、共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏が次期大統領に選出されました。環太平洋経済連携協定から離脱するという、これが明らかになりました。一月二十日に就任式がありますが、そのときに発表するということですので、最も重要な政策課題というふうにしているわけであります。
また、オバマ政権は、十一月八日から翌年新政権までの連邦議会、一般にレームダックセッションと言われていますが、そこでのTPPの批准を強く要請しておりましたが、下院議長のポール・ライアン氏あるいはマコネル上院の院内総務、こういう方の賛成を得られず、オバマ大統領もTPP批准を諦めたということでございます。
したがいまして、昨年の十月五日に大筋合意を得ましたTPP協定は発効できないということになります。米国は現署名国GDPのほぼ六〇・三%を占めますので、米国が協定から離脱しますと発効条件の八五%以上というものに達しませんので、この協定は成立いたしません。歴史的なごみ箱に入れられたと、こういう表現もされているわけであります。
したがいまして、この国会でのTPP審議の意義というのは基本的に私は崩壊しているというふうに考えますが、政府・与党はあくまで今国会で成立をということでございますので、一国民の立場からこのTPP協定について意見を述べさせていただきたいと思います。
経済政策というのは、国民大多数の経済繁栄と安定を目的に策定されると私は考えております。経済利害というのは当然ながら経済的立場によって異なります。ですから、その政策実施によっていかなる人が利益を獲得し、いかなる人が不利益を被るのか、それを比較考量して、一部の人々のみが利益を得る、あるいは多くの人が利益を得ないという政策は採用すべきではありません。よく国益という言葉が言われますが、それは立場の違いによって異なるわけでございまして、政策を実行していく人たちは大局的立場から判断することが求められているわけであります。
トランプ次期米国大統領がTPP離脱表明をしたというのは、雇用の喪失、賃金下落という事態を招くTPPは米国の政策として間違っていると、そういう判断を下したからであります。代わって、トランプ次期大統領は、米国は公平な二国間貿易協定を進めると明言いたしました。この貿易政策というのは我が国に対してどういう影響があるかというのは、今日のテーマではございませんので差し控えます。本日は、現在、政府・与党が成立を急いでおりますTPP協定、これが対象になるわけでありまして、そもそもこのTPPというのは何なのかということをやはりきちんと押さえることが私は必要だというふうに思います。
言うまでもなく、このTPP協定というのは三十章から成る膨大なものでありまして、内閣官房のTPP政府対策本部がおまとめになりましたTPP協定の意義というのを読みますと、その本質がよく見えてまいります。二十一世紀型の新たなルールを構築する、TPPは、物の関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらに知的財産、電子商取引、国有企業の規律、環境など、幅広い二十一世紀型のルールを構築するものと、これが一つ。それから、成長著しいアジア太平洋地域に大きなバリューチェーンをつくり出す、域内の人、物、資本、情報の往来が活発化し、この地域を世界で最も豊かな地域にすると。これは根本公述人が述べられたことと重なるわけでございますが。
ここから見えてくることは、TPP協定によって、海外進出を図る多国籍企業は国境を越える統合を円滑にいたしまして、国内市場を開放する継ぎ目のないバリューチェーン、まあサプライチェーンといいますが、そういうものを形成して、生産の効率性を高め、企業利益をグローバルに高めるということになっていきます。
TPPを推進する方は、自由貿易というのは、生産性を高め、イノベーションを引き起こす、そして輸出増大による高賃金職の創出につながると、こういうふうに言うわけでありますが、こうした貿易効果というのは既に過去のものになっております。企業が原材料から完成品まで国内において行って輸出を増加していると、こういう時代の話でございまして、確かに日本の高度成長時代は自由貿易は輸出の増進、雇用の増進につながりました。しかし、今日の多国籍企業の時代では、国境を越えて企業は利潤追求のための効率的なバリューチェーン、サプライチェーンを形成しますから、自由貿易の促進というのは必ずしも雇用の増大にはつながりません。
現在、米国のAFL・CIO、TPP批准反対を主張しておりますし、次期大統領ドナルド・トランプ氏がその声に耳を傾け、TPP離脱を行おうとしている背景、これは、一九九四年の北米自由貿易協定によって米国内の雇用が失われ、一九九〇年代の後半、IT革命による景気高揚にもかかわらず労働賃金の上昇にはつながらなかった、こういう苦い経験を踏まえて、TPPはそのアジア太平洋版であると言っていることが重要なポイントになってきます。
TPP協定が多国籍企業本位の国際連携協定であるということを示す事実は事欠くことがございませんけれども、例えば第三章の原産地規則及び原産地手続を定めた箇所を検討しますと、それが非常に明らかになります。ここでは、輸入される産品につきまして、関税の撤廃、引下げの関税上の特恵待遇の対象となるTPP域内の原産品として認められるための要件、そして特恵待遇を受けるための証明手続というのが定められておりますが、そして、国境を越えるバリューチェーンの観点からこの箇所の規定を見てみますと、複数の締約国におきまして、付加価値、加工工程の足し上げによって原産地を説明する、つまり完全累積制度ということでございまして、これは明確に多国籍企業が国境を越えるバリューチェーンを形成する、それを促進するということになります。
なぜかと申しますと、一般の原産地規則というのは付加価値方式でありますから、当然、当該国の付加価値のみが輸出の場合にカウントされるわけでございますが、累積制度を取りますと、当該国のみならず、輸入してくる先の生産された部品、中間財の付加価値も原産品としてカウントされますから、コストダウンのバリューチェーンというのを締約国内で自由に形成するということができるようになります。
したがいまして、自由貿易による輸出促進が雇用を増大させるというふうによく言われますけれども、必ずしもそうなる保証はどこにもないということであります。多国籍企業にしてみれば、賃金が高ければ、そうした地域を避けまして、締約国内のどこでも自由に企業活動ができる、他企業との取引も可能になるという、そういうものでございます。
第九章の投資におきましても、さらに、TPP協定は多国籍企業が締約国内のどこでも自由に企業活動ができるように様々な仕掛けを用意しているということがございます。投資しようとする締約国とそうでない他の国を差別してはいけませんし、一旦企業が設立されればその国の企業と同じように処遇すべきであるというそういう、外資系企業では差別してはならないとか、あるいはローカルコンテントの要求、技術移転の要求をしてはならないとか、様々なことがそこで定められております。
つまり、効率的なバリューチェーンを形成するということがこのTPPの目的であるということになりますので、言わばそうした様々な現地の企業の要望といいますか、そういうものが無視されて、多国籍企業本位の言わばサプライチェーン、バリューチェーンが形成されるということが大変大きな問題でございます。
そして、特にISDSという、これはよく言われていますので、ここで時間も限られていますので申し上げることを差し控えますけれども、そういう問題もございます。
そして、言うまでもなく、このTPP協定の大変大きな問題は、農産物におけるところの関税が、確かに一部では守られておりますけれども、それが中長期的には限りなくゼロに近づくという、そういうことが大変大きな問題になっているわけでございます。
これは、一般的に農業の問題であるというふうに考えられております。確かにそのとおりでありまして、こうした関税撤廃であるとか無関税枠が拡大していくということは、言わば日本の農業に壊滅的な打撃を与えるということと同時に、食料の自給率が低下する、あるいはそれに伴って地域経済の崩壊というものが引き起こされるという可能性が出てくるわけでございます。
TPPを推進する方は、関税撤廃による輸入製品の価格が低下して消費者が恩恵を被るというようなことを主張されますが、締約国から安い農産品や食品が日本に大量に入ってくるということになりますと、確実に日本の賃金は低下の傾向をたどるということになります。賃金は基本的に生活費から成り立っているということを忘れてはならないということであります。農産物の約八割が無関税で日本に入ってくるということになりますと、当然、食料品価格の低下と生活費の低下と賃金削減、こういうような事態になってきますと、日本経済のデフレと言われる状況、これは解消するどころか、より深刻な事態になるということが懸念されるわけであります。
更なる賃金低下、内需の落ち込み、デフレの進行と、これは魔のスパイラルと言われておりますが、こうした事態がTPPによって引き起こされるという可能性を否定することはできません。日本銀行が必死になって金融緩和政策をして、デフレを要するに物価上昇という方に持っていこうという政策を取っていますが、実体経済が停滞している以上、それはなかなか難しいということを考えなければなりません。
したがいまして、安倍首相も、賃金を上げる、日本経済を活性化したいというふうにおっしゃっているわけですから、そういう安倍首相の考えを実現するということを考えれば、まさにこのTPPから離脱することこそが、日本のそうした賃金、そして経済、地域の底上げということになる、それをやはり是非考えていただきたいということでございます。
したがいまして、多国籍企業、あるいは海外進出を図ろうとする一部の中小企業の利益には確かに私はTPPはなると思います。これはまさにそのとおりであります。しかし、TPP協定は、多くの労働者、それから農業者、それから中小企業の方、消費者、地域住民、そういう言わば層との矛盾というのを大変深くするということになります。したがいまして、私は、今国会でこのTPP協定を批准するということに対して反対いたしたいということが私の結論でございます。
以上です。
○委員長(林芳正君) ありがとうございました。
次に、住江公述人にお願いいたします。住江公述人。
○公述人(住江憲勇君) まず、こういう陳述の機会を与えていただいたことに厚く感謝を申し上げます。
私は、全国保険医団体連合会と申しまして、地域の第一線の医療機関で働く保険医の医科、歯科合わせて十万五千名を擁する団体の会長としてやらせていただいております。そういう立場で意見陳述させていただきます。
衆議院での強行採決に抗議し、今国会での承認、批准を行わないことを求めます。
政府・与党は、アメリカ大統領選挙の結果など情勢の変化にもかかわらず、また、徹底審議を求める多くの国民の声を無視してTPP協定の承認案及び関連法案の衆議院での採決を強行し、参議院に送付されました。これは、情報開示と国民的な議論を求めた国会決議にも反するものでございます。私たちは、TPP協定内容の十分な開示と臨時国会での徹底的な審議がなされないまま今国会で承認、批准されることは断じて許されないものと考えております。協定上、今以上の情報開示は困難というならば、そもそもそんな貿易交渉は二十一世紀の今のこの世界では認められることはないと思います。
そもそも貿易交渉の在り方とは、相手国と相互に事情、実情を真摯にしんしゃくし合い、対等、平等、互恵関係を構築することにあると思っております。TPPのように、ただただ投資、多国籍企業が徹底的に保護され、相手国に徹底的に市場開放を求め、投資、多国籍企業に徹底的に有利な紛争解決規定を求める、こんな強者の論理、資本の論理むき出しのTPPでは、今、全世界で反省の極みにある、前世紀までの列強による世界支配によって今のテロのような報復の連鎖をつくっているという、そういう反省に対する冒涜であり、何よりも報復の連鎖の再生産そのものであるということを銘記せねばならないと思っております。
公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と健康を損なうという危険がございます。
私たちは、政府が明らかにしている内容だけから見ても、TPP協定は我が国の公的医療保険制度を切り崩し、国民の生活と健康を損なうものであると考えております。地域医療に従事する医師、歯科医師の団体として、下記の点からTPP協定の国会承認を行わないよう強く求めるところでございます。
一つ、新薬の高止まりが続き、医療保険財政を圧迫することでございます。
政府は公的医療保険制度そのものの変更はないとしております。しかし、医薬品については制度的事項で取り扱われ、透明性や手続の公正の名の下に、公的医療保険制度の一部である医薬品の保険適用や公定価格に関する我が国の決定プロセスに多国籍企業が利害関係者として影響力を及ぼすこと、すなわち日本の薬事行政への介入が懸念されます。
また、特許期間の延長やバイオ医薬品のデータ保護期間の設定、そして特許リンケージといった多国籍企業に有利なルールで、現状でも諸外国と比べて高い日本の薬価が構造的に維持され、そしてまた、特許延長はすなわちジェネリック医薬品の開発を限りなく遅延させることになります。
ちょっとここで七ページの次の図を見ていただきたいと思います、私の資料の。
これは、私ども全国保険医団体連合会は二十年来、日本の薬価、国際的に見て高薬価ということを盛んに警鐘してまいりました。上の段の棒グラフは、二〇一〇年に再度、国際比較調査しました。そうすると、イギリスを一〇〇としますと、日本は二二二、米国は二八九という、そういうデータが出ました。これを厚労省に提示しますと、厚労省、本当にほんまかいなということで、再度厚労省として調査した図が下の段です。そうしますと、イギリス一〇〇としますと、日本は一九七、米国三五二と、そういうデータが出ました。米国については私どもの調査よりも高く出ました。そういう構造がございます。
こうした仕組みにより、安価で有効な医薬品が手に入りにくくなり、患者、国民の命や健康が危険、危機にさらされるだけでなく、我が国の医療保険財政が圧迫されることになります。
ここで直近の、皆さん御承知のように、オプジーボの問題をちょっと紹介したいと思います。
これは、薬価は百ミリグラム七十三万円で、六十キログラムの人は一回投与で百三十万円、一年間で三千五百万円掛かる、そういう高薬価です。これは最初、悪性黒色腫という腫瘍に対する症例で適用されまして、大体四百七十症例、三十一億円程度の経済規模とされてそういう薬価が付いたんですけれども、この薬価、私どもの調査で、イギリスを一〇〇とすると、アメリカは二〇〇、日本は五〇〇という事実が判明しました。これは最後から二枚目のページのところにあります。それを見ていただきたいと思います。
私ども保団連として厚労省と交渉し、厚労省としては二五%引下げで幕引きを狙ったと思うんですけれども、経済財政諮問会議でも保団連の私どものデータを取り上げられ、十一月十六日に中医協総会で五〇%引下げが決定されました、市場拡大再算定ルールというのが適用されて。
これ、TPP下であればどうでしょうか。直ちにISDS条項の発動、そういう事態になったかもしれないんです。ですから、五〇%引下げなんてとんでもないと。従来、日米経済、いろんな会合、最近では、対話、調和、何かややこしい名前の会議ですけれども、そういうところでも盛んにUSTRがこの市場拡大再算定ルールを撤廃せよと、要求がもう毎年のように来ていたわけでございます。そういう事実がございます。
そして次に、ISDS条項導入で医療の非営利性が脅かされる懸念がございます。
そもそもISDS条項とは、投資企業が法的整備のない相手国でどんな損害を被るかも分からないということで一定の保障を担保するという前時代的な条項でございまして、TPP十二か国では、全て法治国家でございまして、こんな条項設定する必要が全然ないわけです。こんな前時代的な条項を持ち出すこと自体、強者の論理、資本の論理そのものであると言わざるを得ないです。ISDSを克服すること自体、今まさに人類の英知が問われているんではないかと思っております。
現在、構造改革特区において、自由診療については株式会社による医療機関経営が認められております。保険診療を取り扱うには保険医療機関の指定を受ける必要がありますが、国家戦略特区において外国の株式会社が医療機関開設の許可を得た後、当該医療機関の保険医療機関としての指定を求めてISDS条項の発動を求めるおそれがございます。そうなれば、営利企業の医療への参入を招くことになり、命と健康は金もうけの対象にしないとの趣旨で現在も堅持されている医療の非営利原則が崩されることになってしまいます。
そのほかにも、ネガティブリスト方式、きっちり営利企業参入禁止という項目が医療の項目の中に書き込まれているかどうか、これがもう甚だ不明瞭であります。
そして、もう一つ重要なことは、SPS条項、衛生植物検疫のことですけれども、危険性の評価は徹底的に科学的根拠に基づくとされております。ですから、国民の命、健康にとってこれはちょっとやばい、そういうおそれがあるとき、予防的に事前規制を掛けることが不可能になります。そういう危険性がございます。
そして最後に、助け合いの共済制度に民間保険会社と同等の規制が掛けられるおそれがございます。
当会は、会員が安心して診療に従事し、地域住民の命と健康を守る役割を果たせるよう、助け合いの制度として保険医休業保障制度を運営しております。一九七〇年の発足以来、多くの加入者の生活と医院経営を支えてまいってきました。ところが、TPP協定の金融サービスでは全ての保険サービスが対象となっております。米国保険業界は、長年、共済が事業拡大の妨げになっているとして、各団体が行っている共済制度などにも民間保険会社と同等の規制を課するよう求めており、TPPの今後の協議においてこの圧力が強まることが十分想定されます。そういう危険があります。
最後に、国民の命、健康、暮らしに関わる医療を市場原理に委ねて、国民一人一人自己責任で手当てせよでは、貧困と格差が付きまとう資本主義社会では一人一人に行き渡りようがございません。だからこそ所得再分配として、社会保障制度としての公的医療保険制度がございます。そして、医師、医学者としても、今日の最新最善の医学、医療をあまねく国民一人一人が享受できるようにすることこそ医の倫理と私どもは考えております。これを全うできるのが公的医療保険制度下こそでございます。この公的医療保険制度を瓦解させる、そういう危険大であるTPPには断固反対を表明させていただきます。
以上です。
○大門実紀史君 大門です。
本日は、本当にお忙しい中、ありがとうございます。
本当に、公述人の方々から御指摘があったとおり、なぜまだTPPここで審議しているのかということだと思います。本当に、トランプさんが離脱を明言して、アメリカ抜きに現在審議しているTPP協定は発効しないわけですから、それを承認しても意味がないわけですね。ところが、どうしても安倍さんとか与党の皆さんは承認してくれということで、私たちも困っているんですけれども。なぜやったのかと言われたら、本当にそういうことだと思います、国民感情から言ってですね。
とにかく、一旦離脱を決めた後のアメリカの対応はもう二つぐらいしか考えられなくて、一つは、元々日本は嫌がっていましたけれども、二国間FTAを求めてくると。もう一つは、すぐTPP枠から外れなくても、共和党の今の動きがありますので、再交渉して、より有利なTPPに再交渉するというようなことしかもうアメリカの対応はないというふうに思います。それを無理に安倍政権が応じようとすると、当然、こちらから要求をのみますよというようなことになっちゃって、何といいますか、日本の方から、日本に不利な不平等条約をこちらから求めるような、まさに国益と主権を侵害するような形になるのではないかと思うんですけど、突き進もうとしているわけでございます。
そういう下での今日の公聴会ですので、TPPの協定案そのものがどうかという議論よりも、余り意味を成しませんので、今後のことも視野に入れますと、日米の経済関係、貿易関係が今までどうだったのかということも含めて、今後どうなるのかということも含めて、そういう点に絞って、力点を置いて公述人の皆さんの御意見を伺いたいというふうに思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
まず、経団連の根本さんに伺います。本当、よく今日はおいでいただきまして、ありがとうございます。もう反対の意見の方ばかりの中で、御苦労さまでございます。
先日、安倍総理と私、議論したときに、今日ありました、自由貿易、グローバル化といってももう世界的に見れば富が一部に集中して貧困が広がっているじゃないかと。これ、安倍総理も認められて、それはそれぞれの国の再分配の問題ですというふうにおっしゃったんですね。それも一つあると思うんですけれども、せっかく経団連から来てもらいましたので、その再分配のことを一言聞きたいんですけれど、安倍総理は、そのときも私の答弁で申されたんですけど、今一生懸命財界に、経団連の皆さんに賃金を上げてほしいということを一生懸命求めているんだと。この間もずっと何年か求められて、ただ僅かな引上げですよね、上げられたのは確かですけど、一部ですけどね。
利益が上がっているときは先行きがまだ分からないからということで抑えぎみ、利益が下がるともう上げないと、これではもういつまでたっても上がらないわけなんですけれども。やっぱり内部留保もたっぷりあるわけですから、しかも総理大臣があれだけおっしゃっているわけですから、もう少し真剣に受け止めて、賃金引上げ、本格的に踏み出したらいかがでしょうか。
○公述人(根本勝則君) 一人で頑張っているとのお褒めをいただきまして、ありがとうございます。
賃上げについてでございますけれども、現在の会長を頂きまして後、過去三年間、大企業については二%を超える賃上げを行ってまいりまして、これ過去に例がない形で行ってきております。中小企業におきましても、一・八%程度の賃上げが過去三年間行われてきたという実績がございます。
残念ながら、非常に社会保障にお金も掛かるということで、賃上げの効果はその部分で多少薄れるところはございますけれども、今後とも賃上げのモーメンタムは維持したいということで、現状少し景気減速ぎみのような印象もございますので、そういう環境の中で、引上げができる企業については更に引き上げていっていただきたいというモーメンタムを維持しながら今後も取り組んでいきたいということで、来年の春季労使交渉におきます経営側の方針につきましては一月に出させていただく予定としてございますけれども、引上げのモーメンタムは、繰り返しになりますが、維持をしていきたいというふうに考えているところでございます。
なお、内部留保の御指摘を頂戴いたしました。こちら、ちょっと言葉が悪いような気はいたしますが、投資その他に相当程度回っている部分でございまして、手元に現金が残っているわけではございません。現預金につきましては、企業経営上必要な資金として、一・三か月分ぐらいの経営に必要な資金が手元に留保されているということであろうかというふうに理解をしてございます。決して多い金額ではないということでございます。
○大門実紀史君 内部留保を全部崩せと言っているわけじゃありませんし、まだ賃上げ一部ですから、本当に努力してもらいたいと思います。
実は、再分配の問題以前に、この自由貿易というのは、もうけ方の問題、分配する前のもうけ方の問題なんですよね。つまり、多国籍企業が世界中動き回って、自分たちの利益を最大化するところで世界的な賃金の低下が起きて失業が起きるというような、まず、もうけ方の問題が問われているということでございます。
そういう点で、内田公述人に伺いたいのは、もう自由貿易か保護主義かというレッテルを貼って、そんな議論ばかり、半世紀前の議論と答弁ばかりやっているんですよね。そうじゃないんですよね。我が党も貿易の発展とかグローバル化は何も否定しておりません。ただ、今の自由貿易は、内田公述人からもあったとおり、やっぱり多国籍企業の利益を最大化するためのルール作りと。これはTPPもそのうちの一つだと思うんですね。それが各国であれだけのTTIPもCETAも反対運動を起こしているんだということだと思います。
今求められているのは、逆に、これから更に、自由貿易といいますか、貿易関係を発展させようと思うと、今、一つの戦後の自由貿易は壁にぶつかっていると思うんですよね。余りにも利益が、多国籍企業だけもうかっていると。もう一つルールを作らないとこれ以上発展しないんじゃないかと。
つまり、国民のためのルールといいますか、雇用とか賃金とか社会保障とか、農業とか大事な食料自給率、人権とか環境とか、そういうルールをきちっと今こそ貿易ルールの中に作ってこそ次の貿易の発展があるというふうに考えるんですけれども、内田公述人は世界の市民団体の方々と交流があると思いますので、ちょっと世界の動きといいますか、市民団体の方々の動きを御紹介してもらえればと思います。
○公述人(内田聖子君) ありがとうございます。
既にほかの方の御質問でも幾つか触れましたが、まさにおっしゃるとおりだと思います。
今、貿易の在り方自身が問われているということを申し上げました。これ、別の角度から見ると、企業と国家、この二つのアクターの関係の改善というか、これもやっぱり見直しを迫られていると思います。戦後の経済発展の時代は国家が企業を後押しして、もうどんどん外に出て、今は中小企業でやられていますが、そういう関係性だったんですが、今や、繰り返しになりますが、一企業が一つの国家予算よりも財政規模が大きいとか、もう企業が国家をのみ込んでいくと。そして、国家の方が法人税どんどん下げて、どうぞうちに来てくださいというふうに呼び込まなければ国が立ち行かないということで、投資の呼び込みなどが行われている。つまり、関係性は完全に変わってきているんですね。ですから、古いモデルの貿易のルールではこれは対応できないということは明らかです。
TPPは、そういったことを受けて、企業の自由を更に拡大するようなルールになっているわけです。しかし、これも行き詰まっているという中で、先ほど申し上げたように、ISDをどうするのかとか、環境の規制や公衆衛生、これをどうハーモナイズさせるかということが主要な議論になっています。
TPPはとりわけ関税の問題よりもルールの話なんですね、圧倒的に大きいのは。このルールというところがやっぱりポイントなんだと思います。ルールというのは、各国の規制や法律を一元化していくという交渉をずっとしてきたわけですね。当然、各国の多様な文化や歴史や経済状況、これは、そこと矛盾してくれば社会的なきしみが起こったり貧困層が生まれたり失業が起こったりと、そういう矛盾が今出てきているという状況だと思います。
ですから、私は、やはり多様性を維持しつつ、その国の文化や価値観、経済規模を生かしながら、しかしグローバルなルール作りを進めるということです。
欧米ではこの議論はもう盛んに先ほども言ったように行われています。例えば、タックスヘイブンみたいなものをもう少し何とかならないかということで国際ネットワークもつくられていますし、アメリカでは、日本でも著名ですが、スティグリッツ教授やバーンスタインさんのような有名な経済学者が市民団体と一緒になって、このニュールール、貿易のためのニュールール、今言ったような環境とかISDの改善策もたくさん盛り込まれている、こういったことを議論して、それを国会議員の皆さんにどんどんどんどん提案しているという状況です。
ですから、繰り返しになりますが、日本も、やはり多様性とか地方ですね、地方の主権とか文化を大切にしながら、しかしグローバルにもアダプトしていく、接合していくようなルールというのをとにかく急いで、市民社会や議員や専門家の人がとにかく大急ぎで知恵を集めて議論していかなければいけないと思っております。
○大門実紀史君 次に、萩原先生に伺います。
萩原先生、もうアメリカのこと御専門ですし、いっぱい聞きたいことがあるんですけど、せっかくですから、安倍政権がTPPが成長戦略の要だと言っている意味なんですけれども、実はこの意味は、決して、日本企業が海外に出ていく、これだけではなくて、日本の中の構造改革といいますか、これはアメリカの後押し、あるいはアメリカ企業も要求していると。アメリカ企業と一緒に日本の企業は、例えば医療とか農業とか、こういう分野に市場原理を組み込んで更にもうけの場にしようというかですね。
実はこの日米関係、アメリカの圧力とかアメリカの要求ということだけを捉えがちなんですけれど、根本さん来られていますけど、日本の財界、日本の多国籍企業も一緒になって、このTPPをきっかけに、あるいは自由貿易協定をきっかけに、日本の中の医療とか農業とかその他の分野をターゲットにしようということがあるような気がしてならないんですけれども、萩原先生の御意見を伺いたいと思います。
○公述人(萩原伸次郎君) 今から五年前、二〇一一年二月でしょうか、予算委員会に呼ばれまして、TPPをどう考えるかという、その中で私は、これはもし実現していくということになれば第三の構造改革になるだろうというふうに言ったことがございます。橋本内閣が第一で、その次の小泉構造改革が第二だとしますと、その後の改革としてこれが出てくると。小泉さん、あるいは橋本さん、それなりの改革をやりましたが、残っている大きな部分は農業とそれと医療と、こういう関係にありますので、もしTPPということで日本が突き進むということになれば、そういうところを、財界を中心として農業、医療というのを成長戦略の中に入れているわけであります。これは中長期の日本のアベノミクスの重要な部面でありまして、そういう部面を要するに市場化していくというのが基本的なやり方なんですね。
ということは、アメリカが要求してきているものと現在日本の財界が要求している点がまさに一致しているということが非常に私懸念されたわけです。それでそういう第三の構造改革という言葉を使ったわけでありまして、まさにこのTPP、これはもう成立しませんので、ですけれども、またそれに代わるアメリカは恐らく二国間交渉を求めてくるでしょう。そういうようなプロセスの中で日本の財界と米国の財界が手に手を取り合って市場原理を全て貫かせていくという、そういう点に関して私は大変危惧を持っているということでございます。
○大門実紀史君 住江公述人に伺います。
国民皆保険制度がこのTPPによって崩壊させられるんじゃないかという危惧がずっとあるわけですけれども、主な論点としては、薬価制度、もう一つは混合診療、この二つの、薬価制度が廃止されたり混合診療が解禁されることによって日本の皆保険制度が崩されていくんじゃないかという危惧がずっとあったわけですね。
先ほど大丈夫だ大丈夫だという答弁があったんですけど、昨日、我が党の田村智子議員が、薬価制度がいかに今までもアメリカの要求で変えられてきて、今度もしもTPPが、もうないですけど、TPPに入ったら、あるいは二国間協定の中で、必ず更にその仕組みの中で要望をのまされて日本の公定価格的な薬価制度が崩されると、アメリカは自由価格ですから、ということを取り上げたわけでありますけれど。
もう一つの混合診療なんですけれど、今回対象にしないということですが、実は、規制改革会議、規制改革推進会議にですね、外資のメンバーが加わって、物が言える仕組みを今回はめ込んだわけですね。これは恐らく内田公述人からあった並行協議の中でも、こういう何か片務的な、従属国家的な流れが続いたら必ず、更に続くと思うんですけれども、つまり、ISDSとか訴えなくても、日本の国の政策を決める会議にも直接アメリカ企業が参加すると。そうしたら訴えなくたって政策作れるわけですね。その点でいきますと、混合診療も、実は規制改革会議が提案したり、産業競争力会議というのがあるんですけれども、そういうところが国家戦略特区という形で、混合診療を解禁しろという圧力に対して、取りあえず設けるわけですね。なかなか抵抗して、取りあえず審査のスピードアップだけしますというふうになっているんですけれど、この規制改革会議とか産業競争力会議に外資が入ってきて、特区という形で混合診療が解禁される方向にもう既に踏み出しているわけですよね。
そういう点でいきますと、混合診療も対象外になっているからといって安心だということではなくて、既にもう進んでいるわけですけれども、混合診療解禁が日本のこの皆保険制度を崩す危惧について、御見解があれば教えていただけますか。
○公述人(住江憲勇君) 特区から切り崩していくというところについては冒頭の意見陳述で述べさせていただきました。今また大門議員から、そんなことをやらぬでも、そんなまどろっこしいことよりも、そういう政策決定の段階でアメリカ資本ないしアメリカの代弁者がそういうところに入ってきて直接制度設計されるという危険、まさにそうだと思っております。
そういう中で、先ほども舟山議員の質問でもお答えさせていただきましたように、最終的にアメリカの製薬資本なりアメリカの野望というのは、やっぱり医療のところで最大限のもうけを獲得したい。そのためには、公定価格である診療報酬とかそういうところを切り崩していって、自由診療、自由競争、そういうところを狙われているんですけど、これについては我々医療者にとっては本当に大きな抵抗あります。
日本医師会の倫理綱領でも医療の営利については厳に規制も掛けておりますし、私ども医療関係者として、やはり目の前の患者さんに医療を提供する。これは、皆保険制度で本当にいつでもどこでも誰でも過重な経済的な負担なしに一定の医療を享受できるという、この皆保険制度があってこそ我々本当に余りそういう面で悩ましい思いをせずに医療を遂行できているわけです。ここが切り崩されますと、本当に、この薬をこの患者さんに提供できるんだろうかという、そういう思いでもって医療を一つ一つチェックしていかなければならないという、こういう悩ましい問題が、これは誰を不幸にするかということ、医者では決してないです、やっぱり患者、国民です。
やっぱりそういうところに大きな危惧を持っていますし、そして先ほど萩原先生への質問にもありましたけど、アメリカのそういう圧力も利用して本当に日本の社会を変えていく。究極的には新自由主義国家づくりだと思います。新自由主義国家づくりというのは、国の役割は、司法、外交、軍事、徴税、社会福祉、そして公共事業、もうここには完全に社会保障という概念は抜け切っているわけですね。社会保障を空洞化して、そこで浮いたそういう金額をどこに回そうとするか。結局、大資本の世界戦略のために成長戦略に回されるという、そういう国民、労働者の生きるその糧を、本当に命を懸けてそういうところに奉仕せざるを得ないという、そういうもうじくじたる思いが、やっぱり国民全てが持つべきだと思っております。
以上です。
○大門実紀史君 どうもありがとうございました。